ドイツ1人旅 3日目 アリアンツ・アレーナ〜バーデンバーデンでカジノ


●思い出深きドイツ1人旅行。長編旅行記その3。
  南ドイツ随一の都市ミュンヘン。バイエルンミュンヘンも随一のフースバルチームだ。


ミュンヘンの新市庁舎 アリアンツ・アレーナ

ドイツ1人旅 目次

※この旅行記は長文であるため、複数ページに渡って記載しています。

タイトル 旅行日時 国・地域 地名 旅行先・観光したもの メンバ
備考
ドイツ1人旅
(長編)
1日目
2日目
3日目
4日目
5日目
2009/07/17
〜07/22
ドイツ フランクフルト レーマー広場、街歩き 1人旅 長編

初1人
海外

カジノ
シュトゥットガルト 街歩き
ミュンヘン アリアンツ・アレーナ、街歩き
バーデンバーデン カジノ、カラカラテルメ
ケルン 街歩き、ケルン大聖堂

3日目 街歩き〜スタジアムへ

私は枕が変わるとなかなか寝られないタイプなのだが、本日も昨日と同じく、途中で目が覚めることなく起きることができた。
といっても旅行先では枕は使わず、専ら濡れていないバスタオルを畳んで、そこに頭を乗せているのだが、
それでも寝覚めがよいということは、普段よりも歩き続けて疲れているせいだろう。

7:00を少し過ぎた頃、私は朝食をとりに部屋を出た。
ロビーの奥にある部屋に入ると、もう数人が食事をしているようであったが、
思ったよりも広いその部屋には活気があり、どうやら昨日の宿とは違い宿泊客はそこそこいるようだ。


とりあえず一番角の席に腰掛け、机の上にハンドタオルを置く。
まぁ満席になるとは思えないが、とりあえず席の確保だ。
テーブルを見ると、折り目の入ったテーブルクロスがきちんと敷かれており、中央には砂糖やらコーヒー用のグッズが添えられていた。

今日の宿のレストランもビュフェ形式だ、色々食べてみよう。
パンにエッグにハム…、やはりソーセージは外せない。
小さいハンバーグなんかもあった。ドリンクはアップルジュースにしよう。

席について皿を並べ、写真を1枚撮ってから、口へ運んでみる。
うん、美味い。昨日の朝食も普通に美味かったけど、安宿でもこれだけの味を食べられるのか。
ちょいと気持ち油が多いものもあるが、ドイツの料理が日本人の口に合うというのはありがたい。


ややゆっくりとした食事を楽しみながら辺りを見回す。
特別広い部屋でもないのに、テーブルやライトが上品に飾られ、とても見栄えがいい。
やはりどんな建物であっても、工夫を凝らして部屋を飾り付けるのは、ドイツの良き伝統なのであろう。

私の座っている席から、料理が並べられているエリアのすぐ隣の部屋が見えた。
どうやら中は厨房らしい。出来た料理をすぐさま隣のフロアに運んでいるようだ。
シェフと見られる男性が何やら料理を作っているのが確認できる。
厨房とレストランの距離が近い。あたりまえか…。


腹が膨れすぎない程度に朝食を終わらせ、部屋に戻る。
少し休んだ私は、とりあえずまずは軽く歩いてみようと、荷物を整理して部屋を出た。
今日も鍵はフロントに預けず、カバンに入れたままにしておく…まぁこのくらいはいいだろう。

──※余談─────
実はホテルを出る前、フロントの近くにあったインターネットができるPCを操作してみた。
目的はというと、ドイツのエロ本がどこで買えるのか探すためである。

ドイツのPCだと日本語入力ができず、この公共用PCに、新たに日本語入力ソフトをインストールするのもためらわれたので、
私はアルファベットのまま入力して検索し、日本語のひらがな・カタカナが書かれてあるサイトをまず探し、
そこに書かれてある文字をコピーペーストするという方法で、日本語の入力を試みた。

まず「ほん」と検索し、「本」の文字も表示させておく。
さらに1つ1つ、「エ」「ロ」「本」と、ブラウザの上の方にあらかじめ設定されてあった検索枠へと文字を避難させておく。
さらに後ろから誰かに見られたらまずいので、半角スペースで区切りつつ「ロ 本 エ」などという並び方で待機。
(そもそも日本語が分かる人がここに泊まっているとも思えないが、もしいたらこの上なく恥ずかしいので万全を期す)

いよいよ「ドイツ エロ本」と検索開始。
うーむ、Yahoo!知恵袋のような書き込み式の質問板くらいしか見つからない。
それにも、「ドイツのエロ本は恥じらいがない」などと、これから見ようとしているブツのネタバレが流れてくる始末である。

タブブラウザは既に4つほど立ち上がっている。
なかなか目当ての情報が見つからないな…と探していると、不意に人の気配が。
しかも私がそれに反応するよりも早く、声をかけられてしまった。

Excuse me.
慌てて振り返ると、学生と思われる女子2人組みがこちらを伺っているようだ。
どうやらPCを代わってくれ、と言いたいらしい。

私は軽く頭を下げると、慌ててPCにあったブラウザを片端から閉じていった。
よりによって若い女の子に、何を調べようとしていたのか探られるのはまずい!
しかし複数起動していたせいか、なかなかブラウザが素早く閉じてくれない。

少々時間をかけすぎたようで、彼女達は顔を合わせて、小声で
「私達が言った事、この人に通じたのかしら?」
と言っているような気がした。

これ以上時間をかけるわけにはいかないと、私は最後の手段に出る。
最低限のブラウザを閉じた上で、ブラウザに残ったままになっている「ロ 本 エ」を削除せずに席を立ったのだ。
もしこれで彼女達が日本語を理解するなら最悪だが、
私を見て英語で話しかけてきたから、アジア系の言葉に精通している可能性はあるまい。

手を差し出すジェスチャーと共に、彼女達に席を譲った。
彼女たちは少しホッとして席に座る。
軽くつぶやいた言葉は何かわからなかったが、おそらく「すぐ済みますから」といった風だろう。

私は少し離れた位置で、彼女達が終わるのを待つことにした…のだが、2分ほど待ってみても、彼女達が席を立つ様子はない。

んー、俺は何をやっているんだ?
先ほど頭をかすめたものの、あえて気が付かないフリをしていた感情が込みあがってきた。

「それほど時間がたっぷりあるわけでもないのに、俺は何とアホくさいことに時間をかけようとしているのか」

至極、当然である。
私は彼女達に気づかれないよう、ホテルを後にするのであった。
彼女達が日本語を理解できないということを願いながら…。
──※余談終わり─────

まず中央駅に到着した私は、正面入り口からカールス広場へと歩いてみる。
日曜というだけあって、もう9時前ではあるが通りの店は全て閉まっている。
ドイツでは空港などの主要施設以外は、これが普通らしい。
  

人通りも全くなく、車も少し走っている程度。
逆に安全でいいかと歩いていると、カールス門が見えてきた。
近づいて写真を撮る。うーむ、なかなかの大きさだ。
  

門をくぐって道を歩く。このあたりは日曜でも人が通っているようだ。
通りにある店は相変わらず閉まっているようだが、人通りを見るに、観光客や地元の人も少なからず日常的に通る道ということだろう。


道を歩いていると、泉の中の彫刻から水が流れている。
あまり気には留めなかったが、近くにいた観光客と思われる人が写真を撮っていたので、私もつられて撮ってしまう。
タイミングが少し悪かったのか、私がシャッターを下ろし終えると、こちらを見ながら立ち止まっている人がいた。
カメラ撮影の邪魔にならないように配慮してくれていたのだろう。
私は笑顔で、もういいですよ、と手を出してジェスチャーした。
  

この道にはヨーロッパらしい古風のデザインの建物も多いようだ。
一部工事中の建物もあるのだが、そこにも完成イメージと思われる絵が描かれてあり、景観を損なわせない。
よく見ると、中がデパートのようになっている建物もあるようだ。
  

しばらく歩いていると、昨日に続き新市庁舎が見えてきた。
マリエン広場までたどり着いたようだ。
今日は雨が降っていないので、じっくりとカメラを構える。
  

どうやらこのネオ・ゴシック形式の建物の上部にはドイツ最大の仕掛け時計が細工されているようで、
カメラを構えて拡大してみると、確かに今にも動き出しそうな人形が数体設置されている。
きっと特定の時刻になると、この人形がくるくる動いたりするのだろう。


そのまま私はこの周辺を、散策するように歩き回る。
途中、路面に引かれた電車の道を見つけ、近くには停留所もあった。
ミュンヘンでも路面電車はあるらしい。


一応、方向を確かめながらも進むのだが、方角はほとんど直感的だったような気がする。
いかにも歴史を感じさせる建物と像が立っていたが、地図を見ると、どうやらホーフガルテンというところらしい。
写真を撮りながらも、道沿いに歩いていく。
  

すると何やら、6車線の車道と十分な幅の歩道が合わさった、とても広い道へとたどり着いた。
この建物群はなんだろうか? サイドにはやはり古風な建物が並ぶ。
どうやら車両を通行止めにしてあるようで、数台の車が停車する中、何人もの作業員が動き回っている。


通行止めにするくらいだから、何か特別なイベントでも行われるのだろう。
今思えば、市民参加型の自転車競技イベントか何かだったような気がする。
こんな立派な門の下を潜り抜けるルートのようだし。


さてそろそろ帰ろうかと地図を見直すのだが…いよいよもってヤバイ。
本格的に道に迷ってしまったようだ。
広いこの道を進めばきっとわかりやすい場所に出るだろうと思うが、そんな甘い話にはならず、
引き返して先ほどのUバーンの駅を目指そうと戻るにも、先ほどあったはずのものが見当たらない。


歩き回ること30分。明らかにこれは迷っている。
認めなくないが、少なくともドイツでは私の方向感覚は頼りにならないようだ。
なんてことだ…、軽くミュンヘンを散歩程度に見て回るつもりだったのが、かなりロングなウォーキングをしてしまったようだ。

この疲労している状況で、あまり人に聞くようなことはしたくなかったのだが、これ以上ここで時間を食うわけにもいかない。
住宅街を歩いていた私は観念して、人を探す事にした。

歩くこと5分。ようやっと人がいそうな場所に出た。
カフェのような建物の前に若い女性がいたので、私は声をかける。
Entschuldigung sie.(エントシュルディグン ズィー.)

女性がこちらを向く、地図を見せながら私は続けた。
I want to go to Hauptbahnhof.(中央駅に行きたいんですが)
女性は少し緊張した面持ちで、地図を見ながら困惑。
どうやら英語で道案内をする自信がないのか、どう説明していいのか分からないといった様子だ。

少し待った後、これ以上彼女に精神的な負担をかけさせるのも悪いので
Wo ist das?(ここはどこ?)
と聞く、すると彼女は地図を指差してくれた。
駅に近づいていると思ったら、えらい離れた所に来ちまったな…。

いくらドイツでは私の方向感覚が鈍っているとはいえ、現在地さえ分かれば駅に戻るのは容易い。
彼女は途切れ途切れになりながらも、道を教えてくれているようだ。
しかしどうも自信なさげな彼女の話がどこまで信用できるかも謎だったので、彼女の話を聞くだけ聞いた後、私は
Danke schon. と笑顔でお礼を言い、一応彼女が指差していた方向へと歩き出した。

とりあえず地図を見ながら進んでみる。
迷ってはいるが道を尋ねる事には成功したので、これでまた迷ったら違う人に聞けばいいだろう。
そうこうしているうちに、ようやくUの看板が見えてきた。(Uバーンの駅)
うーむ、お金はかかるだろうが背に腹は変えられない。

私はその看板の側の階段を降りた。自動券売機が置いてある。
これまでドイツで電車に乗っている人を見てきたが、どうも皆切符を買っていない気がするんだよな…。
でも店員に咎められるのも御免なので、素直に切符を買って打刻し、Uバーンに乗り込んだ。

ようやっと中央駅についた私は、昨日と同じインビスに足を運び、
これまた全く同じヴラードヴルストを買って、今度はその店の横にあるスペースで立ち食いした。
やっぱり美味い、これはドイツにいる間は必ず食べるべきだ。


簡単な昼食を終えた私はホテルに戻り、まだ午前中だというのに疲れた身体を休めるため、ベッドでややゆっくり時間を潰した。
本来、予定時刻を大幅にオーバーしてはいるが、ここで本日の予定を狂わせるわけにはいかない。
体力も十分に必要になるはずなので、多少時間を取ってでもこの休息は必要だと判断したのだ。

結局、チェックアウト時間の少し前までベッドで休んでいたが、体力は幾分か戻ったようだ。
荷物を持って部屋を出、あらかじめ用意していた本に書いてあったフレーズを頭にイメージする。

Auschecken,bitte.(チェックアウトをお願いします)
うむ、どうやらフロントには問題なく通じたようだ。
今日のフロントのスタッフは前日の愛想のない人よりも、若くてとっつきやすい人だった、助かった。
キーを預け、Danke! と言いつつ私はホテルを後にした。

中央駅からSバーンに乗り、Marienplatz駅に移動した私は、さらにUバーンのNo6の駅を目指す。
券売機で切符を買うが、長いエスカレーターを降りて地下に出たところで、打刻機が地上にしかないことを思い出し、
改めてエスカレーターで往復するあたり、私はきっと律儀なんだろうとか思った。


電車を待っている間、空いていたホームのベンチに腰を下ろし、足を休ませながら小休止。
まぁいろいろあったけど、今日はまだまだこれからだ。
次の目的地はここから11駅目…Frottmaning駅にある、アレだ…!


▲ このページの一番上に移動 | ▲ 目次に移動

3日目 アリアンツ・アレナ見学

あまり乗客がいないUバーンに乗り、ようやくそこにたどり着いた。
駅のホームの看板には「Frottmaning」と書かれている。
この名称からは何があるのか想像できないだろうが、私がミュンヘンに来たならば決して外せなかった目的が、ここにはあるのだ。

ドイツで最も人気のあるスポーツ、かつ日本人がわざわざ見に来る可能性のあるもの。
そう、この駅にはかの有名なサッカースタジアムがある。


そのスタジアムの名前は「アリアンツ・アレナ」

ドイツの強豪、バイエルンミュンヘンのホームスタジアムである。

元々、オフシーズンながらサッカー熱を少しでも感じようとやってきた私にとって、
この場所の訪問こそがドイツ旅行の目的の1つと言ってもいい。
ややこの日は時間に余裕はなかったかもしれないが、それでもここで時間をかけずして、どこに費やすというのか。

とまぁそういうわけで、駅についた瞬間から、私のテンションはいつもの1,5倍である。
何せこの駅名の看板「Frottmaning」の左には、サッカーボールのマークが描かれているのだ。
最寄の駅名を把握していなくても、ここにはスタジアムがあると
一目で分かるようになっているのだから、さすがバイエルンである。


電車で11駅とあってやや町の外縁部に位置しているが、この駅はさすが、なかなかの大きさである。
そもそもこの駅に降り立つ人の目的はきっと95%以上がサッカー目的であり、
しかもバイエルンは強豪中の強豪。観客動員数も相当なものである。

今はオフシーズンということで人通りは少ないが、それでもやはり日曜だけあって、人はちらほらいる。
私ははやる気持ちを抑え、ホームから階段を上がった。

そのまま金網が付いている橋を渡るところで、向こうの方に大きなスタジアムが金網越しに見えた。
間違いない、あれがアリアンツ・アレナだろう。

しかし、聞いていた通り、駅からスタジアムまでが遠い遠い。
途中に電車やタクシーなど便利なものがあるはずもなく、スタジアムまでは完全に徒歩である。

しかもこの辺り一体には目立った建物はなく、少し離れた木々の緑の中に風力発電用のプロペラが立っているのがよく見えた。
真夏のこの時期ではあるが、障害物で阻まれることのない風が容赦なく吹き付けてきて、体感では寒く感じる。
これは冬だとかなり冷え込むだろう。


遠くに見えていたスタジアムが徐々に近づくのを感じながら歩き続けること十数分。
ようやっと肉眼でも全貌が見渡せるようになってきた。
ベストなアングルで写真をパチリ。さすがデカイ。


人の出入りを確認して、その場所からさっそく敷地内に入ってみる。
日本のサッカースタジアムは地元の長居球技場くらいしか知らないので比較はできないが、
比較的最近に建てられたということもあり、どこか輝かしく見えた。


このスタジアムの繭のような外観は、半透明の特殊フィルムETFE(旭硝子製)で覆われており、
スタジアム内からは景色を眺めることができ、試合開催日はクラブカラーであるバイエルン・ミュンヘンの赤、
1860ミュンヘンの青、ドイツ代表戦などでは白にそれぞれ発光する仕組みらしい。

すぐ近くを走る高速道路では、アリアンツ・アレナのあまりの美しさに見惚れてしまうドライバーが多く、事故が多発しているとも聞く。

さっそくスタジアムに足を踏み入れる。
どこが入り口かよく分からないので、とりあえずまっすぐ進んでみると、フェンス越しに観客席とピッチがあるのが見えた。
随分ピッチが近い。まぁ長居のスタジアムは陸上競技用のトラックがあるし、
サッカー専用のスタジアムというわけではないから、差があるのは当然か。


とりあえず写真に収め、入り口を探す。
1Fには入れる場所がなさそうなので、スタジアムの階段を上ってみる。
なるほど、どうやらここから中に入れるようだ。


室内は綺麗で、やはりまだ新築という印象を受ける。
一通り歩いてみたが、どうやら一般客が入れそうなのは、
バイエルン・ミュンヘンのグッズ専門店、1860ミュンヘンのグッズ専門店、
そしてこの建物であるアリアンツ・アレナのグッズ専門店、ということのようだ。
オフシーズンであっても、無許可でピッチに入ったりはできないらしい。

しかし実はこのスタジアムには、スタジアム見学ツアーというものがある。
どうやらアリアンツ・アレナの店で予約ができるそうなので見てみるのだが、
入ってみたときには何やら人通りが多く、もうツアーが開始されているらしかった。


だがどうもこれは事前に予約している客が集まっているようで、今すぐに予約をしても間に合わなさそうだ。
うーん、躊躇せずに思い切ってここに入り、迅速に店員に駆け寄れば間に合ったかもしれない…。


時間は今13時だった。
どうやらツアーは1時間区切りのようで、次は14時。1時間も待たなければならないとは…。
しかも英語でのツアーは13時だけ。なんとタイミングが悪いことか。

まぁもう仕方がないので、私はゆっくりと店のグッズを見つつ何と喋ればよいかを考える。
客がチケットをカウンターで買っているのを確認し、私は思い切って店員に話しかけた。
Ticket bitte.

なんともシンプルな、しかも何のチケットなのか分からない可能性もあったが、
店のスタッフは問題なく、スタジアム見学のチケットだと把握してくれたようだ。
今この場で言うチケットといえば見学チケットしかない。読みが外れなくて幸いだった。

チケットを買おうとサイフを出したとき、主人が何かを尋ねてきた。
私は思わず「n?」と聞き返してしまった。もう一度しっかり聞く。
…なるほど、どうやらドイツ語のガイドだけどかまわないか? と言っているようだ。
私はOKと言い、とりあえずチケットを買うことには成功した。

通路をうろうろしたり、観客席のオブジェに腰掛けたりするが、まだ待ち時間はたっぷり残っている。
この時間を使って、バイエルンのショップをじっくりと見てみることにしよう。


バイエルン・ミュンヘンのショップカラーは、さすがというべきか、バイエルンのユニフォームカラーである赤と白ばかりであった。
選手のユニフォームはもちろん、応援の際に振り回せそうなタオルや帽子、さらには選手カードやコップのようなものもあった。
時間を有効に使うため、私は帰りに買う予定のお土産を先に選んでおくことにした。
カードとミニグラスと…バイエルンのロゴ入りドロップ缶。まぁそんなところだろう。
  

ようやく14時の10分前。アリアンツ・アレナショップに戻ると、既に人だかりができていた。
一度に案内できる人数には限りがあるのだろうが、さすが、そこそこの人が集まっている。
私もできるだけ人だかりを避ける場所で待つこと10分。ようやくガイドが現れた。

スタッフにチケットを見せ、隣の部屋に通される。
見学客全員を集め、部屋のスクリーンに映像が流れ、ガイドが何やら説明している。
どうやらこのスタジアムがどういう流れで建設されたのか等、スタジアムの歴史の解説をしているようだ。
もちろん全てドイツ語なので意味は分からなかったが、そこそこ大掛かりな工事だったであろうことは把握できた。

説明が終わり、全員で大移動。いよいよスタジアムの中に入れるようだ。
ここに入る時に通った通路の階段をさらにのぼり、一番上へ。鍵で扉の施錠が外される。
客が通り抜けつつ、スタッフは1人1人のチケットを少し破っていく。これが入場のチェックになるようだ。


扉を抜けると、少し殺風景な広場に出た。どうやら観客席に通じる広間らしい。


所々で立ち止まりつつ解説するガイド。
スタジアムの外壁を説明しつつ、何やら客に回し見せているものがある。
どうやらひし形をした透明なセロハンのようなものらしい。
概観を構成するパーツの形だ、素材なども解説してくれているのだろう。
隣の中年の女性客が私に差し出してくれたが、私はいいよ、といって受け取らなかった。
「あらいいの?シャイなのね」と少し微笑みかけられた。
この辺りの心の向けられ方は暖かい。ドイツ人は優しいね。


一通りの説明の後、いよいよ中へ。ここからが本番だろう。


やや狭い通路を抜け、太陽に照らされた向こう側を覗き込む。
眼下に広がるピッチと観客席。すごい、さすが最新設備搭載のサッカー専用スタジアム。


他の客と同じようにスタジアムの椅子に腰掛け、理解できそうもないドイツ語の解説に一応耳を傾ける。
見た感じ、客の中にもドイツ語が分からなさそうな人もいたが、しかし理解できないからといって、
明らかに聞く姿勢を損なうような態度をとるわけにもいくまい。
私は適度に聞いているフリをしながら、改めてスタジアムを見回した。


あの大きな外観からは想像ができなかったが、思ったよりもスタジアムは狭い。
サッカー中継などでは随分大きく見えるのだが、実際はこれくらいのサイズだったのか。
その大きな理由の1つとして、ここがサッカー専用のスタジアムであることが挙げられるだろう。


例えば競技場というのであれば、サッカーのみならず他の競技も行えるよう、
陸上のトラックであったり、備品が置かれているスペースがあったりと、その分スタジアムの中央部の面積が広くなる。


しかしここはサッカーができるピッチがあるだけであり、他に余計なものは一切置かれていないのである。
ピッチのサイズはサッカーのルールで規定されている通りの大きさだから、他のスタジアムとの大きさの差はない。


何より、ピッチと観客席の位置が近いというのは非常に魅力的だ。
そのため、どこの席に座ってもピッチがよく見える。
選手との距離も近いから、背番号の確認も容易で、観客にしてみればこれほど快適に試合が見られる構造はあるまい。

各客席は綺麗に整えられており、カラーも青とコンクリート色でほぼ統一されている。
これならサポーターが一斉に集まれば、変にスタジアムの色が混ざらず、バイエルンのカラーユニフォームに染まりあがるだろう。

決して大きく見えないピッチはコンパクトそのものであり、無駄に大きすぎず、かつ快適に観戦できる、すばらしいスタジアムといえよう。

観客席の次は、すぐ後ろにあるレストランへ。
どうやらスタジアム内には、2つ3つのレストランがあるらしく、
このレストランが観客席から最も近いようで、試合観戦用のモニターも所々にあった。
ゆったり食事をしながら快適に試合を見れるスタジアムは、いかにヨーロッパとはいえ、決して多くないのではなかろうか。


このレストランの頭上には、何やら金色の筒のようなものが多数敷き詰められていた。
結局これが一体どのような効果があるのかは分からないが、何かしら重要な意味があって、このようなレイアウトになっているのだろう。
  

再び観客席に座ってガイドが解説。
不意に、観客が同時に大きな声を出した。
なるほど、このスタジアムは声がよく反響する構造であり、ガイドが「合図で一斉に声を出してください」と言ったのだろう。
さらにもう一度、一斉に大声。私を含めたドイツ語の分からない人は出さなかったようだが、
声を出した客は、指示されたことに臆せずきっちり従うあたり、さすがドイツ人らしい行為ではないだろうか。


ガイドが解説を続ける中、突然私の前の席に立っていた男3人組のうちの1人が大きな欠伸をした。
その欠伸ですらスタジアム内に反響している、思わず笑うドイツ人。
「欠伸も反響しているよ」そのように呟いている人もいるようだ。

この3人組、どこか人相が悪そうだが、どうやらドイツ語は理解できないらしい。
となるとサッカーが盛んな周辺国のどこかにいる人だろう。イタリア人かトルコ人あたりか。
さらに1人、解説に耳を傾けるでもない、写真をとりまくっているアジア系の人もいた。
さすがアリアンツ・アレナ。外国人観光客も日常的に訪れるのだろう。


ガイドに従い、どんどん進む。
次はどうやらここは、メディア用の会見場のようだ。
重要な試合の前に監督や代表選手が抱負を述べたり、誰が移籍するだの、獲得するだのとTVカメラの前で発言したりする場だ。
こんな部屋でさえスタジアムに設置されているというのは驚いた。
  

会見場の次は…おお、ロッカールームに向かっているのか。
移動の途中、選手が使うシャワー室や、試合前に選手が通る通路なども見せてくれた。
その近くには、選手の写真入パネルが並べられてある通路もあった。


いよいよロッカールームへ。人が多いから中をじっくり見ることはできないが、予想外に狭い。
まぁ無理に広げる部屋でもないかもしれないが、なんとなくロッカーは日本のスタジアムよりも狭い気がする。
日本よりも明らかに体格が大きいドイツのサッカー選手には窮屈かもしれないが、
新設のスタジアムですらこの大きさということは、この広さが欧州では一般的なのだろうか。


ロッカーは全て赤色で出来ていて、照明は若干暗い。
きっとこれも、選手に対して無理のない設計なのだろう。


事前に調べていた情報によると、ロッカーの上部には写真パネルを取り付けられる箇所があり、
誰がどのロッカーを使用しているのかがすぐ分かるようになっているらしい。
この時はオフシーズンだったため、バイエルンミュンヘンのチームロゴイラストしかなかったが、何となくイメージはつかめた。

ロッカールームを後にして、いよいよピッチに近づく。
どうやらここは、選手入場の際に待機する場所のようだ。
選手が試合に挑むにあたりモチベーションを高め、重要な試合でまずTVカメラが選手を捕らえる場所こそが、ここなのだ。


さていよいよピッチに向けて歩き出そうというときに、ガイドがチャンピオンズリーグのアンセムを流してくれた。
粋な計らいだ、観客も満足そうに足を動かした。
  

階段を進み、いよいよピッチへ。


さすがに中は立ち入り禁止ということでチェーンがかかってあったが、
階段から見るピッチは非常に綺麗で、ピッチと客席の距離がいかに近いかということを感じた。
これだけ近ければ観客の大声は選手の耳にも届くだろう。
まさに選手も観客も、サッカーに打ち込むための環境がここにあるといえる。
  

戻る途中、観客も満足そうだ。
ここを見ることこそが、スタジアム見学のハイライトの1つかもしれない。
  

階段を戻り、今度は逆の方向へ。何やら広い部屋に出た。
そこにはアリアンツ・アレナの写真パネルや、オブジェの代わりなのか高級車なども置いてある。
何の部屋なのかよくわからないが、ここも何かしらに使用される部屋なのだろう。
  

その部屋からスタジアムの外へ出る。


風が吹いていて少し寒かったが、ほんとうにこの辺りにはスタジアム以上に目立つ建物がない。
それだけに、一層このスタジアムは存在感を増すだろう。
ドイツ強豪チームの新設スタジアムは、まさに別格扱いである。
  

別の扉から中へ戻る。途中、バイエルンの選手がビールを片手に記念撮影しているパネルがあった。
面白いので写真に撮ってみる。最早これはサッカー選手でもなんでもない。


1Fのレストランを通り抜け、その先の部屋でガイドが軽く挨拶した。
どうやらここで解散ということらしい。


時計を見ると、ゆうに1時間はガイドを受けていたらしい。
予想外に時間を取られてしまったが、このイベントは外せなかったので止むを得まい。
何を心配しているかというと、次のホテル到着が遅れてしまうと、
宿泊がキャンセルされる可能性があり不安だったのだ。ガイド中もどこか落ちつかなった。
時間の余裕はない中、焦る気持ちを抑える。

腹も減ったので、スタジアムの外にある1Fの売店に行き、ブラードヴルストを注文した。
サイズや味は微妙に違えど、ドイツはどこでもヴルストが買え、しかもどこでも美味しい。
ここのブラードヴルストもやっぱりうまかった。少しは元気が出たかな。


これ以上長居をすると予定に差支えが出るので、やや早足で駅に戻る。
途中、カメラを構えていた若い男性が、こちらに向かってきた。
英語で話しかけてきたが、よく見ると一緒にガイドを受けていたアジア系の人である。

この状況からして、写真を取ってくれと頼まれるのは明らかだったので、私は相手の質問を聞かずして掌を差し出した。
快く写真撮影を引き受け、シャッターを下ろした後、カメラを返しながら、すかさず聞いてみた。

Are you from?

I'm from Koria.

なるほど、日中韓のうちどれかだと思っていたが、韓国人だったか。
もしや日本人かとも思ったが、逆に韓国人相手なら下手な日本人よりも親近感が沸くというものだ。

私は隣国ではあったが、異国の地で同胞にあったような心地よさを感じていた。
あまり韓国語は分からないので、折角なので彼と英語での会話を試みることにした。

I'm ... Japan.

不意に出た私の英語。これでは「私は日本(という存在)」となり、明らかに格好悪い英語丸出しだ。
まぁそこは、向こうも異国人なわけで、気後れする必要もないだろう。

彼が話している英語は、日本人が話す英語に大変近かった。
気分はまるで日本人同士で英語の会話を楽しんでいるかのようである。
やはり韓国人と日本人だと、同じアジア系ということで共通点も多いのだろう。

私はドイツ旅行にあたってドイツ語ばかり勉強しており、英語の勉強はさっぱりだったので、なかなか満足のいく受け答えができない。
文法もきっちり守られていない、単語を単発で繋げて行くような拙い英語ではあったが、
向こうもやはりドイツ人相手ではなく、同じ外国から来たもの同士ということで、きっちりとこちらの英語に耳を傾けてくれた。

駅に戻りつつ、会話を続ける。
(覚えている限りこんな感じでした)

私「バイエルン・ミュンヘンは好きかい?」Do you like Bayern Munchen?
彼「もちろん大好きだよ」Yes!
私「俺もだ、好きな選手は誰?」Me too. What do you favorite player?
彼「リベリーかな」Franck Ribery.
私「俺もそうだよ。俺はオリバー・カーンも好きかな。」
Me too. My favorite player is...Oliver Kahn.
彼「オリバー・カーン?」Oliver Kahn?
私「ゴールキーパーだよ」(ゴリラの顔真似をしながら)He is Goalkeeper.
彼「ああ」Yeah.
私「彼はとても怒っているよ」He is very angry.
彼「ハハ…」haha.

私「ここは寒いね、風がとても冷たい」Here is very cold. Wind..
彼「ああ」Yeah.
私「日本はとても熱い」Japan is very hot.
彼「韓国もだよ」Korie too.

そんな会話を繰り返しているうち、駅に到着した。
私は慌てて切符を買わねばと、彼に挨拶をすることもなく急いで券売機に向かう。
彼は待っててくれるだろうか? 今の反応だと無理やり別れたみたいだな。

切符を買って急いで電車に向かう。やはり彼は先に進んでいたようだ。
まあこの場合は私の対応にも問題があっただろう。
彼を追いかけて電車に入り、同じ席に座る。

私「やあ」
彼「やあ」

見ると、彼の手にはガイドブックが握られていた。

私「韓国のどこの出身?」
彼「仁川だよ」
そうか、俺もコリアンエアーで仁川空港を使ったんだ。
と言いたかったのだが、どうも伝わらなかったようだ。

私「俺は日本の大阪の出身だよ」
彼「そうなんだ、僕は日本にも行った事があるよ」
私「ああ、そうなのか」Oh. yeah!

私「これからどこへ行くんだい?」
彼「(ガイドブックを見せて)ここかな、昨日はここにいったよ。」
見てもよく分からない場所だ。
この本はどうやらドイツだけの本ではなく、「ヨーロッパ」のガイドブックらしい。
ドイツ以外にも行くつもりなのだろう。

私「これ俺も行ってみたいねぇ」
彼「ん?君も次はここに行くの?」
ちょっと言葉選びを間違った、彼に誤解を与えてしまったようだ。
私「いやいや、違うよ」

私は自分のガイドブックを見せ、私の予定のスケジュールを彼に示してみせた。
私「初日はフランクフルトに行って、次の日にミュンヘン、今日はバーデン・バーデンで、明日はケルンだ」
彼「ケルンは僕も行ったよ。(ガイドブックの大聖堂の写真を指差して)ここは良かった。」
私「そうなのか、ケルンで泊まったのかい?」
彼「いや、フランクフルトで泊まって、日帰りでケルンに行ったんだ、2時間で行けるよ」
なるほど、そういうプランもありだな。

乗客が少ない電車の中、我々の話し声ばかりが響く。
周りの人の視線も気になるが、せっかく得られたこの会話の場を無駄にしたくない。

次の言葉が出てこない私は自分のガイドブックを見せ、ジェスチャーで交換するよう求めた。

見事にハングルだらけの韓国語のガイドブックである。
オールハングル、というと向こうも気を使ったのか、オールジャパニーズと返してきた。
彼の持つガイドブックは多少使い込まれたような後があり、本にはヨーロッパと書かれてある。
この本はやはりドイツ専用の本ではない。

私も英語がすぐに出てこないので、しばし無言の時間がある。
向こうも積極的に話してくる風でもないので、私はできるだけ頭の中で拙い英語を組み立てつつ、会話になりそうな文章だけを口に出した。

私「3年前。」
私「俺も韓国に行ったことがある」
彼「本当に?目的は何?」

私は少し苦笑しながら
私「カジノさ」
彼「ああ、なるほど」

この反応からすると、カジノが韓国国内にあることは知っているようだ。
まぁ仁川出身なら、そのあたりの事情は把握しているんだろう。

私「あそこはとてもヒルがね…」
彼「ヒル?」
ヒル(丘)という単語が伝わらないのか、それとも私の言い方が悪かったのか、
この部分は会話が成り立たなかったようだ。

私はパスポートに挟んであるコリアンエアーの半券を取り出した。
彼はさほど驚いた様子もなく、私が差し出した半券を見るだけだった。
今回の旅行でそれを使ったんだ、と言いたかったけど、
伝わったのか、今までの会話の流れでもう既に伝わっていたのか、よく分からない。
んー、まぁいいか。

そんな会話をしているうち、彼が俺はここで降りるんだ、と言った。
彼「君は?」
私「俺はここじゃないよ」

それを聞くと荷物を担ぎなおし
「Enjoy your Trip!」
彼は親指を突きたてて、私に向けながらこういってくれた。

私も何か気の利いたことを言えればよかったのだが、残念ながらとっさに言葉がでなかった。
私は笑顔のジェスチャーでありがとうと伝えると、彼は手を振って電車を降りた。

旅行先で出会った人と会話し触れ合う。これぞ旅行の醍醐味だよな。
私はなかなか度胸が湧かず、他人を警戒しがちだったから、ここに来て見ず知らずの人と触れ合うことなど
今までできなかったが、何の縁か彼と出会い、拙いながらも会話することができた。

ここに来て慣れない一人旅を続け、どこか不安な中で旅行していたが、知らない土地で自分に近い人種に会えた事、
その人となんとか意思疎通ができたことが、どこか自信になったのか、時間に余裕がない現状は変わらない中で、
少し心に余裕が出てきたような気がした。
なんとかなるもんだ。彼には感謝しなければならないな。

次の目的地、バーデン・バーデンはミュンヘンからかなり遠い。
到着が夜遅くになるのは覚悟しないといけないな。

思えば今日の朝、軽く散歩だといって出たはいいものの、思いのほか迷いすぎて時間がかかったのが痛かった。
スタジアム見学にも随分時間をとられてしまったし、もっと時間の余裕をとっておけばよかったかな。

個人的には無理のないスケジュールにはしていたつもりだが、予想外のことがかなり起こったような気がする。
ここは日本ほど時間が細かく流れる場所ではないのだから、もっと大雑把なスケジュールにしてもよいかなと、私は少し反省した。


▲ このページの一番上に移動 | ▲ 目次に移動

3日目 バーデンバーデンへ

バーデンとはドイツ語で「入浴」という意味であり、バーデンと名が付く都市は大体、温泉保養地になっている。
そしてドイツの温泉保養地にはたいていカジノ等の娯楽施設もあって、
ドイツ人は数週間の休暇をとり、こういった保養地に留まってリフレッシュするのだという。
日本のように、短い休みでいろんな場所を見て回るようなスタイルは少ないようだ。
一つの場所にずっといるからこそ、そういった都市には、温泉以外の娯楽施設も充実しているというわけだ。

有名な「バーデン」は、フランクフルトから比較的近い「ヴィース・バーデン」。
そして少し南に離れている「バーデン・バーデン」。ここが次の目的地だ。
なぜ「バーデン・バーデン」にしたのかは…後述するが有名なカジノがあるからである。

ミュンヘンに戻り、DBの案内センターの窓口へ。
筆談でバーデン・バーデンへ行きたい事を告げると、路線案内をプリントアウトしてくれるのだが、
乗換えがある分ややルートが複雑だった。

とりあえずこのプリント通りに進めることにして、まずはICEでシュトゥットガルトに向かう。
当初の予定では乗り継ぎでこの駅に来ることになるとは思っていなかった。
まさかの2度目の訪問だが、今度は乗換えをしくじるわけには行かない。

次の電車が来るまでにまだ時間はある。
私は軽く腹ごしらえをしようと、駅にあったNordSeeを覗いた。
ここのは小さめの出張所みたいなサイズで、売れ残っている品揃えも多くはないが、
とりあえず最も安いバーガーと飲み物を買い、ベンチに座って食べた。


※NordSeeとはドイツでよく見かける、フィッシュ&チップスのファーストフードのこと

ようやっと次の電車が到着。
今度は初めての乗車となるICだ。
ICEが新幹線ならICは特急といったところだろうか。
設備的にはICEと大きくは違わないが、停車する駅が多めで、移動時間も少し長めだ。

少し電車の到着が遅れたということで、気が気ではなかったのだが、
この電車に乗り込んだあとは目的地の駅までは座って待つしかない。
不安を覚えながらも、身体を休めることに専念した。

いよいよフランクフルトの南側へと電車が走る。
徐々に窓辺の景色がガラッと変わり、山や森などの木々が目立つようになってきた。
なるほど、ここがシュヴァルツヴァルトか。日本語に訳すと「黒い森」。
確かにこれは森といえるだろうが、別段黒くは見えない。
しかし場所によっては確かに、草原の緑と比較すれば黒い木もありそうだ。

時間は21時くらい。ようやっと駅についた。
ここがシュヴァルツヴァルトの西部の代表的な都市、バーデン・バーデン。
今日の宿泊地である。
この時間だと日は沈んでいるが、まだ空は明るい。

もっと大きな駅かと思ったら、意外と田舎チックな感じがする。
まぁ温泉保養地だからこれくらいが妥当であろうか。
人の流れに従って、とりあえず駅を出る。

確かここからバスに乗らないといけない。
何番バスの何駅目のどこ駅か、事前に念入りに調べてあるとはいえ、バスには少々苦手意識がある。

駅のメイン出入り口と思われる場所から外へ出る。
なるほど、目の前にバス停がある。番号もあっているしここから乗るのは間違いないだろう。
さっそく到着したバスに乗り込むのだが、切符を買っていないことにハッとした私は、慌てて外に出た。
んー、電車といい、バスといい、なんで皆、切符を買ったりしないんだ?

あまりに多くの人が切符を買っていないことに困惑する私は、意を決して切符を買わず、次のバスに乗り込むことにした。
バスの座席に荷物を下ろし、車内前方のモニタを注視する。
降り場を間違えるとかなり悲惨なことになるので注意しなくては。

バスから見える風景は、決して都会ではない。田舎に来たというイメージだ。
思えば今まで都会ばかりを旅行していたので、こういった風景を見るのは初めてだ。
このあたりがドイツでは、どの程度の田舎になるのかは想像できないが、温泉保養地なのだから、ド田舎というわけではないだろう。

何度も手元のメモを見ながら、モニタに映し出されるガイドを見つめる。
次以降の停車駅3つが表示され、1つずつ、文字がずれていくようだ。
中央駅から十数駅、ようやっとLeopoldsplantzに到着。
さっそくバスを出る。結局お金を払わずに乗れたようだ。

ここまでくればもうちょいだ。
バスを降りた私は、噴水のある広場が見えたのでそこに向かった。
さてここからも道が分かりにくい。このあたりの地図は出発前に何度も見たというのに、
目印となり得る分かりやすい建物が1つもないのだ。これは困った。

今まで散々迷った経験を無駄にしないよう、慎重に進む。
とりあえず地図付きの案内看板がある場所を基準にすれば安心だろう。
そうこうしているうちに、どうやらカジノのある建物が見えてきた。
確かこの建物のすぐ近くの高級ホテルなのだが…。

しばらくうろうろした後、いよいよ辺りが暗くなってきたので、違うような気もするけどカジノ近くの高級そうなホテルに入ってみた。
間違えて入ると大変失礼にはなるが、まぁ高級ホテルであれば、現在地くらいは親切に教えてくれるだろう。

地図を見せつつ、スーツでビシッと決めた黒人のスタッフに現在地を尋ねた。
うむ、どうやらここのホテルが目的地ではないようだ。
スタッフは私の手持ちの地図が分かりにくいようで、そのホテルで使用されている地図を取り出し、ボールペンで道筋を示してくれた。
Danke schön.
私は疲れてはいるができるだけ笑顔を作り、親切なスタッフに礼を述べた。

もう迷うわけにはいかないと、地図で示された方向へと慎重に進む。
どうやらバス停の近くまで戻ってきてしまった。最初の方向を間違えていたのか俺は。
そこからすぐ次の角を曲がり、さらにもう1つ曲がる…とホテルがあるはずなのだが、どうも道が分かりにくい。
それっぽい建物を見つけ、壁沿いに歩いていくと…ようやく建物内部の入り口を発見した。
正直これは分かりにくい。私でなくてもこれは迷うだろう。

ホテルの名前をチェックする。
STEIGENBERGER EUROPAISCHER HOF。
その横に★マークが5つ。ドイツではホテルの★評価はされていないらしいから、
自前の評価なのだろうけど、値段や建物を見るに、高級感には溢れている。

さっそく中に入る。どうやら右手がロビーらしい。
豪華そうなホテルだが、まずはチェックインだ。
カウンターに行くと、若い女性スタッフが私を迎えてくれた。

私は宿泊状況に不安を覚えながらも、恐る恐るプリントアウトした宿泊データを差し出す。
しばらく作業を進めるスタッフ。
用紙を出され、必要事項の記入を求められた。
この反応はどうやら、宿泊は取り消されていなかったようだ。ようやく安堵した。

記入用紙を、分かるところから埋めていく。
1箇所だけどうしても分からない部分があった。
向こうは何度も英語で解説してくれるのだが、どうしても彼女の言う単語の意味が分からない。
こちらが首をかしげていると、「じゃあいいわ」と言わんばかりに、笑顔で空欄を許してくれた。

ドイツに来てから片言の英語とドイツ語とジェスチャーでなんとかしてきた私は、
このとき始めて、自分の語学力のなさで恥をかいてしまった。
思わず苦笑しながら頭を抱えてみせる。ごめんよお嬢さん。
英語をもっと勉強しなきゃな、と思いつつ、スタッフから説明を受ける。

ドイツで言う高級なホテルというその基準は、きめ細かい説明にあるという。
安宿であればチェックアウトは何時か?とか、朝食はどこで何時に食べられる?とかを、
一々こちらが質問して聞かなければならないのだが、ここでは黙っていても一通りの説明をしてくれる。

といっても私も事前にある程度の情報は調べてあるし、いかに向こうが英語を使ってくれているとはいえ、
全てを聞き取れるほど私の耳は優秀ではない。

向こうもこちらが英語があまり得意でないことを理解してくれているようで、
町の散策用のパンフレット地図を広げ、ここら一体がショッピングストリートだとか、
カジノや劇場はここだとか、ボールペンで印をつけながら教えてくれた。
高級ホテルとあって、私も遠慮なくじっくり聞かせてもらうことにする。
宿泊客には、カジノ等の施設が割引になるカードがもらえると聞いたが、それもちゃんともらえた。
説明を聞き終えた後、差し出された鍵を受け取る。

あとは部屋に入るだけだ。
長距離移動で疲労しながらも、私はようやっと宿を得られた安堵感で顔がゆるんでいた。
ロビーのスタッフはエレベーターで2Fと言っていたので、とりあえず奥の方にあったエレベーターに乗ってみる。

しかし、なんとも豪華なホテルだ。
この建物といい、エレベーターといい、まさに高級感に溢れている。
2Fについた私はゆっくりと通路を歩くが、古風なデザインの階段の手すりに、
博物館から持ってきたのかと思えるような調度品すら置かれていて、本当にここは正真正銘の格式高いホテルだなと思った。

鍵を片手に部屋を探すが、またもや迷いそうになる。
まぁホテルで迷っても何の問題もないし、むしろ散歩をかねていろんなものを見れるから、これはこれで楽しい。

壁に書かれた番号を探しつつ、隣の建物部分へ。これは分かりにくいな。
ようやっと部屋にたどり着き、私は鍵を開いた。

すげぇ!

客室は大変上品なつくりで、シングルにしてはなかなかの広さである。
部屋の床は絨毯で、壁は白、ドアノブなどは金色だ。
ベッドにはパンフレットがきちんと置かれ、その前にはソファーと小さなテーブルが1つ。
そしてその上には、ようこそいらっしゃいました、とばかりにお酒とグラスが置かれてあった。



バスルームとトイレも上品で、さすが高級ホテルだけあってバスタブもある。
しかもおそらく床は大理石だろうと思われる。
一介の貧乏旅行者が泊まるには場違いな気もするが、たまにはよかろう。
  

これほど立派なホテルだったなら、なぜもっと早く到着できなかったのかと、私は激しい後悔の念に襲われた。
まぁ慣れないことの連続で仕方のない部分もあったが、次以降の旅行には、大いにこれを教訓とすることにしよう。

窓が少し開いているが、外からここが見えることはあるまい。
とりあえず荷物を置き、服を脱いでベッドにダイブしてみた。
んー、気持ちがいい。
ここはミュンヘンと違って随分暖かい気候のようで、窓を開けていても寒くなく、湿度がそこそこあるためか、むしろ心地よかった。


▲ このページの一番上に移動 | ▲ 目次に移動

3日目 カジノへ

さて──

少し休めたので、いよいよメインイベントに向かうことにする。
ミュンヘンからかなりの距離が離れているにもかかわらず、わざわざバーデン・バーデンに来た目的を達成せねばなるまい。

それは世界有数の豪華さを誇るカジノを見ることだ。

カジノについて語るとかなり長くなるので、また別の機会で述べるとして、
ここのカジノはヨーロッパの中では特に豪華であり、モナコに匹敵、いやそれ以上の絢爛さだと評する人もいる。

そしてこの時のために、わざわざスーツとネクタイを日本から持参していた。
決して大きくないバックパックの中に、明らかにかさばっているにもかかわらず、だ。
(ヨーロッパのカジノは正装でないと入れない)

なので、いかに遅い時間とはいえ、このタイミングで行かないという選択肢はない。
ここで行かねば、なんのために重くかさばる荷物を持ってココまで来たのか。
ここのカジノは営業時間が決められているので、さっさと行かねば。

ちゃっちゃと着替えつつ、カジノモードへと頭を切り替える。
自称ギャンブラーとしては、勝負はここからはじまっているのだ。
湿度が高く思ったよりも暑かったので、シャツを脱いで直にカッターを着る。
上下も見に付けて鏡を覗く。うむ、ネクタイもずれていない。

フロントに寄る時間も惜しかったので、鍵をポケットに入れて持参。
体裁が大事なので、スーツ姿でこれ以上余計な荷物を持ってはいけない。
カジノ内は撮影禁止なので、デジカメも部屋に置いた。
汗かきな私はタオルが必需品だが、代わりにハンカチがベストだろう。

スーツ姿で高級ホテルの入り口から出るだけなのだが、身が引き締まる想いだった。
ロビーに先ほどの女性がいたら軽く微笑みかけようなどとも思ったが、あいにくホテル内でスタッフに逢う機会はなかった。

異国のリゾート地の高級カジノにフォーマルな出で立ちで向かうのだから、気分はまさに欧州の国の紳士である。
背筋を伸ばして歩き方にもこだわってしまうから不思議だ。

カジノの場所は、ホテル到着前に迷った場所だから把握している。
多少入り組んではいるが、見通しがいいので迷うことはなかった。

ここのカジノはクーアハウスという、宮殿のような建物の中の一角にあり、コンサートホールやレストランなども備えられている。
見た目からして豪華だ。

カジノの入り口と思しき建物の出入り口を発見。
階段を5段ほど降りたところに簡素な扉が設置してあるだけで、随分ごちんまりしている。
人通りもないのだが意を決して扉を開…こうとするのだが、鍵がかかっていた。
しまった、こっちの出入り口は封鎖されているのか。
確かにカジノがどうのこうのとは看板には書いてあるのだが、
こんなチープな入り口にカジノ好きの高貴な方々が出入りしているイメージは沸かない。

視線が気になって後ろを見渡すも、幸いにも近くには誰もいなかった。
見られていたら、紳士な格好をしているのにとんだ恥をかくことになる。
誰も見ていないことをいいことに、ネクタイを気取って締めなおし、気持ちを仕切りなおす。

建物はここで間違いないから、入り口は探せば見つかるだろう。
クーアハウスの正面に回り混むと、中央入り口の前にカジノの看板が立てかけてあった。
近づいてみる。私より先に隣にいた3人組も看板をじっと見ていたが、私に気が付いて少し距離を離す。

「この人行くみたいね」と小声で聞こえた。どうやらこの3人組は日本人らしい。
少し初老の夫婦に息子といったところだろう。こんな場所でも日本人を見るとは。
話しかけようとも思ったが、やっぱり止めておく。
そのエネルギーはカジノ入場に集中しなくては。

この看板は確かにカジノのことが書かれてあるようだ。
私は事前にここのカジノの情報は念入りに調べていたが、果たして私の拙い語学力で万事問題なく入れるのか、それが不安である。

だがはるばるカジノのためにこんな遠くまで来て、しかも服装まで用意した。
いかに小心者の私とは言え、ここは気合いでなんとかするしかない。

気持ちを引き締めてクーアハウスに入った。
正面には階段がある、情報によるとこの右か。
そこのデスクにはスーツのスタッフが1人立っていて、下を向いていた。
私は近づき、ジェスチャーで「カジノはこちらか?」と伝える。
向こうもこの奥を示してくれているようだ。間違いはないだろう。

奥に入ると、そこはカジノのロビーになっていた。既にこの時点で豪華だ。他に客は見えない。
だがスーツ姿の自称紳士が、オドオドして立ち止まっているのは格好がつかない。
私はできるだけゆっくりと歩いて、受付のスタッフの様子を伺った。
2、3人いるが…私は一番右の黒人の女性スタッフに近づいた。

いきなりホテルでもらったカードを差し出す。
向こうは少し驚いた顔で、マユゲを吊り上げ訳が分からないという表情だ。
さすがにこれはまずかったか。紳士モードの私は取り乱す事なく
I want to go to CASINO.

そう告げた。向こうも理解してくれたようだ。
続けてスタッフから英語で質問が来た。
ジェスチャーなしの英語であるが、内容は比較的簡単で、相手の言っていることは概ね理解できた。紳士モードすげぇ。

First visitかと聞かれているようだ?
First visit.と反復して答えた。

割引が聞くはず、とカードを差し出すのだが…
向こうは英語で長い文章を話し、受け取ろうとしない、使えないのか?

パスポートという単語が出ている。カジノでは身分証明書がいるし、
外国人であればパスポートは必須だろう。事前の情報通りもちろん用意してある。

紙とペンを差し出され、名前とアドレスと番号を書けと言われた。
なるほど、だがドイツからわざわざ日本の私の自宅に何か郵便物が届くとも思えないし、まして電話がかかってくることもあるまい。
私は気負わずペンを走らせる。

アドレスの書き方は確か前に調べたことがある。まぁJapanという単語を忘れなければ、
多少順番が前後しても住所は特定できるから、神経質になることはないだろう。
番号も書いた、名前は…。

Japanese Kanji? alphabet?

初日と同じくつい聞いてしまった。
パスポートを見せてあるからこちらが名前を漢字で書く国であることはわかっているはず。
だがその質問の答えも初日と同じであった。
女性スタッフは少し苦笑しながら言葉に詰まっているようだ。
私は少し微笑み、アルファベットで書くことにした。

用紙を渡すと、スタッフはパソコンを打ちはじめた。
私の書いた内容を入力しているのだろう。
一瞬苦笑したのが見て取れた。
日本の慣れない住所で戸惑い、タイプミスしたのだろうか。

3EUROと言っている、入場料のことだろう。
EUROをオイロじゃなくてユーロと話されているのを聞くと、わざわざ英語を使ってもらっているようで悪い気がする。
EUROをオイロと読む練習を、私はドイツに来る前に随分訓練していた。

ここまで順調に進んでいたことで多少気が休まったためか、私はもう一度、ホテルで受け取ったカードを差し出す。

…やはり向こうは長い英語を話し、受け取ろうとしない。
単語を聞くにジュライと言っている。7月で既に有効期限が切れたとか、そういうことか?
向こうの表情と会話の内容から、どうやらこのカードは確かに割引などの効果を
もたらすものではあるのだが、今この状況では使用できない、ということのようだ。
なんてことだ、高級ホテルで貰ったものなのに。

まぁ3EUROなら問題ない。
私はこれまでカジノで入場料を取られた経験はないが、ヨーロッパのこの規模のカジノなら入場料は一般的に発生するものらしい。
ここは高級カジノだが、それで3EUROなら安いだろう。
2EUROコインを1つ。50centコインを2つ置く。

OK。
女性スタッフは少し立ち上がり気味の姿勢で確認すると、はっきりとそう言い、コインを手元に持って行く。
少し手続きがされたあと、入場カードを差し出してくれる。

Danke.
カードを受け取りながら少し微笑みかけ、カウンターを離れた。

さてカードが手に入った、ここからが本番だ。
奥に進み、係員にカードを渡し、さらに奥へ。

左手に高さのある小さめのテーブルが3つ。
右手には開閉式のカウンターが3つ並んでおり、今は一番右だけがオープンされている状態だ。

とりあえずテーブルに近づいて、それっぽく身なりを整える。
気持ちを落ち着け、木の色がする古風のカウンターへ向かう。
Hi! 気さくな受付の男性が笑顔で話しかけてくれた。

片言の英語で、カジノのチップの交換はここか?と聞く。
うむ、ここで間違いないようだ。
カジノ内でも現金が使えるかもしれないが、
ここで事前に交換しておいたほうが浮き足立つ事もないだろう。

終始笑顔で、嫌な顔1つせず、私の言わんとしていることを真剣に聞いて対応してくれる。
特別な訓練を受けたプロのスタッフに違いない。
これほど笑顔で親切に、しかも暖かに対応してくれるドイツ人はなかなかおるまい。

何ユーロチップに変えるのか? と聞いている。
ミニマムベットは? と聞いてみると、
ルーレットが2EURO、ブラックジャックが5EURO(だったかな)だそうだ。

君がやるのはポーカー? 黒と赤?
というように英語で聞かれているようだ。
大丈夫、こちらもある程度カジノは慣れてるから、「黒と赤」という表現をわざわざ使ってくれなくてもいいぜ。

私「Roulette.」
スタッフ「Roulette?」
このイントネーションは、やはりルーレットのことを「黒と赤」と言っていた様だ。

少し悩み、予算50EUROのうち20EUROを2ユーロチップで、残りの30EUROを5ユーロチップで持とう、などと考えるが、
向こうが2EUROでどうだ? と勧めてくれるので、それにしてもらうことにした。
考える時間が少し長すぎるし、人がいいとはいえあんまり待たすわけにもいかない。

50EUROを支払い、2ユーロチップが25枚も取り出される。
格好よく5枚ずつチップを重ね、一度崩して数を客に確認させる動作を、連続で5回並べるように行われる。
一通り並べられたそれを再びスムーズに重ね、それをスマートに渡してくれる。
カウンターディーラーの粋な計らいだ。

ラスベガスでもカウンターで両替やチップを買った場合などは、
順番に並べてみせたあとにGood Luck!といいつつ粋な出し方をしてくれる。
それを見た客は「よし!やるぞ!」という気に十分させられるもので、このカジノであっても徹底されていたようだ。

随分多いが、チップ自体は軽くて小さそうだ。
受け取ったチップを全てポケットに入れ込んでみる。思ったよりかさばらない。

受け取ったあと、スタッフは頑張れよ! と両手の親指を立てて突き出し、笑顔で気さくに話しかけてくれた。
ここまでやってくれるとこちらも心休まる。
やっぱり彼らは訓練されているに違いない。

さて、いよいよ入場。
少し狭めの入り口を抜けると、確かにそこにはカジノが広がっていた。

思ったより人が多い。受付には全くいなかったのに…。
ということは、これだけの人数がカジノ内で長時間留まっていたということか。

周りを見渡す。
部屋は豪華そのものだ。噂に違わない、いやそれ以上か。
まるで古き良き時代の高貴な貴族の家に招かれたかのようだ。
下にひかれた絨毯も、所々にある椅子も、天井から吊るされたシャンデリアも、
どこの博物館から持ち出したのかと言わんばかりに、高級感溢れている。

来ている人の身なりも皆フォーマルだ。
年齢層も中年〜初老の方が多いようだ、まさに紳士淑女。
私はアジア系だから若く見られているかもしれないが、堂々としていれば逆におっさんに見えるだろう。
受付で服装をとがめられることもなかったので、こちらも物怖じすることはない。

カジノの前に、まずは歩いてみる。
あまり急いで歩くのは日本人丸出しだ。
できるだけゆっくり、背筋を張って堂々と足を動かす。

入ってすぐのフロアには少し大きめのルーレット台がいくつかある。
椅子が置かれ、客がたくさん座っている。
ディーラーも数人、固定された位置に待機していて、ゆったりとゲームを進めているようだ。

入り口のフロアの左手にはレストランがある。
扉などはなく、そのまま隣のフロアにカウンターが見えた。
メニューが立てかけられてあったが、ドイツ語ばかりだ。
ゆっくり食事するのも時間がもったいないし、事前に勉強しておいたとはいえメニューの解読に四苦八苦するだろう。
中に入らないとレストランの全体は見えない構造のようで、
どれだけの広さがあるかは分からないが、とりあえずここに入る必要はない。

入り口のフロアの右手には、やや小さめのサイズのルーレット台が4、5台並んでいる。
こちらは椅子はなく、客もディーラーも立って行うようだ。
ディーラーは台に1人しかいない。

このフロアの隣は戸を潜らないと入れないようだ。
ガラス越しに伺い見るに、どうやらブラックジャックあたりが行われているらしい。
あまり各部屋に人の出入りはないようだ。
ここの客は1つのゲームに長い時間をかけるのだろうか。

入り口のフロアの奥は大きなフロアになっていて、小さめのルーレットがある部屋からも入れるようになっている。
このフロアには使われていないルーレット台が置かれてあり、机や椅子もある。
この部屋も広いスペースながら見事に装飾が施されており、この1室をゆっくり歩くだけで、まるで古代美術館の中にいるかのようだ。
奥にトイレがあるのが見えたが、ここに人が入ることはほとんどないようだ。

フロア数自体は少なく、置かれているカジノ台も少ない。
カジノとしてはかなり小規模な部類に入るだろう。
しかし、カジノフロアの装飾は極めて絢爛豪華であり、カジノを目的にしなくても入場料が取れるほどである。
モナコを含めヨーロッパのカジノに入るのはこれが初めてのことだが、
ここがヨーロッパ一豪華なカジノと言われれば、確かに納得できる。

さて、豪華だということは十分に理解した。
さっそくルーレットに挑戦することにしよう。
ゆっくり歩きつつ、席が開いたルーレット台の椅子に腰掛ける。
入り口から正面に位置する台だ。ここはミニマム2EURO。

できるだけ堂々と周りを見据える。
むぅ、ミニマムは2EUROなのだが、客の賭け方が半端ない。
2EUROチップで賭けている人は少数で、半分以上の客は20、50EUROチップを基準に賭けている。
中には100EUROや500EUROチップを、それも大量に賭けている人もいるではないか。

通常のカジノであれば庶民客と富豪客とで部屋が分かれていることが多く、庶民的な金額で楽しむ人は一般ルーム。
掛け金が半端ない金持ちは別のVIPルームに通され、その豪華フロアでゲームを楽しむものである。

がしかし、なるほど、ここではそれらの区別がなく、ミニマムは低いから一般の客でも追い返される事はないが、
マックスも高いから金持ちは金持ちでかなりの額を一度に掛けられるようだ。

そもそもこれほど豪華なカジノは、そこいらの高級カジノのVIPルーム以上の絢爛さといえる。
イメージ的には庶民にもVIPルームが解放されている感覚だ。
ドレスコードも厳しく皆がフォーマルだから、金持ちも気分を害することはないだろう。
低いチップで楽しんでいる人も普通にいるわけだし。

とりあえずまずはアウトサイドベットにチップを置いておく。
これで私は掛け金が少ないとはいえゲームに参加している1人の客であり、存分にゲーム参加者の顔色を伺えるというものだ。

私が座っている席は入り口から見てちょうど背中を見られる位置だ。
ルーレット台に具体的な向きがあるかは分からないが、私からみて左右に横長の台が見える位置であり、
入り口の向きを考えれば、ちょうど正面に位置する台ということではないだろうか。
私はそのうちの、右から2番目の席だ。やや右端よりの位置か。

私の正面の客は、まるでアインシュタインの生き写しのような外見をしている。
まさにアインシュタインが生きていればこんな感じであろうという初老の白髪男性である。
掛け金も100EUROを大量に置いていく、相当な富豪だ。
眼光の鋭いその男性はとても賢そうな顔をしている。投資家だろうか。
周りを気にすることなく、ゆったりと自分の間を崩さない。
金持ちの余裕というやつだろう。

普通カジノのチップは円形の硬貨形をしているものだが、中には長方形のチップを手にしている客もいた。
さぞかし高額なチップなのだろうとチラ見してみると、なんと1000EUROと書かれているではないか。
うーむ、私も一度は触ってみたいものだ。

左を見ると、何段か段差になっていて、さらにそこに立派な椅子が据え付けられ、
この台を取り仕切る総責任者と言わんばかりのディーラーが座っていた。
なるほど、少し高い位置であれば、客の全体を見渡せるだろう。

右を見ると、ディーラーが2人、台の方を見て座りゲームを進行している。
手には何やら、透明のT字型になっている長い棒を持っている。
Tの縦棒の部分が長く素材は木だろう、横棒が短く透明なプラスチックのような素材か。
ソウルにしてもラスベガスにしても、ディーラーがこのようなものを持っている光景を見たことがない。
高貴なカジノならではの品位あるアイテムなのだろうか。

私はディーラーの動きを観察し、そのT字棒をどう使うのかを見ていた。
なるほど、この長いT字棒を使うことで、台に置かれたチップを自分の席に座りながら整えている。
ルーレットは台にきちんとチップが置かれなければゲームをスタートできないので、
客が多くチップも多いなか、乱れないように逐一その棒で調整しているのだ。

さらに私は驚くべき光景を見た。
右にいるディーラーが何かを喋ると、左にいる高い椅子のディーラーが、
軽く手をひねりつつ、チップを台の上に投げるではないか。
その動きも華麗なものながら、もっと素晴らしいのは、右にいるディーラーが
手に持つT字棒でチップをキャッチしつつ、見事な手さばきで1つ1つチップを重ねていくのである。

なんとも見事だ。
それを何事もないかのように軽く、しかも正確に行うのだから紳士そのものだ。
当然のことだが、ここにいるディーラーは全員、プロとしての特別な訓練を受けているに違いない。
ラスベガスのアメリカ人らしい、少しラフな淡々としたディーラーとは明らかに質が違う。
ドイツ人の気品ある紳士ディーラーとは、これほど渋いものか。

またディーラーは、客が指示すれば変わりに遠い位置にチップを運んでくれたりもする。
しかも客もディーラーも当然ドイツ語で、例えば客が22-23の間にチップを置きたいなら
ツヴァイツバンツィッヒ-ドライツバンツィッヒ
と喋るだけで長い。どうやらundは省略されているようだが。
ドイツ語の場合は読まれる連続の数字が長いものだから、なおさら格好いい。

凄い長いものもあった。当然、瞬時には聞き取れない。
アインドライツィッヒ-ツヴァイドライツィッヒ-ドライドライツィッヒ
3つの数字に適応される所に置いてくれ、ということか。

テーブルに座っている客のみならず、椅子が足りなくて立ち見している客も、どんどん後ろからチップを置いている。
私も何度か真後ろから手を伸ばされ、チップが台に置かれていく様を見た。

ルーレットが2回ほど回されたところで気が付いたが、ルーレットを回す間隔が異常なほどに長い。
当然ルーレットが回らない限りは1回のゲームがスタートせず、回す頻度が遅いとゲームの回転率も悪くなる。
しかしここでは、客がじっくりと満足いくまで考えてチップを置き、
誰か1人でもチップを置こうとしている間は、ディーラーはルーレットを回さない。
そのため10分以上時間を置くこともあった。

なるほど、ヨーロッパのカジノは社交場のようだと聞くが、これを見ると確かにそれは納得できる。
客は皆勝つことを望んでいるのは当然だが、中国人のようにガツガツ勝ち負けにこだわる感じではなく、
勝負事でありながらもどこかこの空気を楽しんでいる感じだ。
だからディーラーは急いでルーレットを回そうともしないし、客もディーラーものんびりと進行することに何ら不満はなさそうだ。

この場所はこの空気を楽しむと同時に賭け事を楽しむ場でもあるから、この雰囲気に対して私も何1つ不満は感じない。
しかしながら私は明日も旅行の計画があり、今日の時点でカジノに入ったのが遅い時間であったため、
あまりのんびりと楽しめる時間の余裕はない。
何度かルーレットが回った後、私は静かに席を立った。
勝ったり負けたりだが、今のところ少し負けているか。

その足で私はトイレに向かう。
豪華な部屋を抜けて、ゆっくり歩きつつ、部屋の装飾を楽しむ。
トイレの扉が2つ見えた。さてどっちが男か…。
これまた事前に調べておいた情報を脳から読み出す。
DAMENが女性でHERRENが男性だったはずだが、このトイレの表示は違っていた。
FrauenとMannerとある。確かこっちの場合は…。
ちょいと戸惑いながらも、人が少ないから間違えてもすぐ出れば問題ないだろう。
紳士モードの私はできるだけ落ち着いてMannerの扉を開けた。
ビンゴ。誰もいないのをいいことに、紳士モードをちょっと解除して用を足す。

トイレも豪華なのだが、各フロアと比べれば至って普通である。
まぁトイレに派手な装飾などあっても仕方があるまい。
高級品を汚すわけにもいかず、かえって用を足すのに神経を使うだろう。

トイレから出た私は、一端チップを買ったカウンターへと戻った。
3つの開閉式のカウンターのうち、今度は一番左が開いていた。
また正面のテーブルにまず移動した私は、ポケットからチップを取り出して数を確認。
1つだけ開いたカウンターへ近づいた。
場所が違うからか、スタッフも先ほどとは違う人だ。

Hi!
話しかけてみると、向こうもそう返してくれる。
最初の人よりも多少強面な人だが、返答の仕方はやはり穏やかで気さくだ。

5EURO tip bitte.
私は2EUROチップを15枚出しつつ言った。
即座にスタッフは応じ、5EUROチップを6枚出してくれる。
やはり先ほどと同じ、格好よく重ねたチップを一度崩して数を客に確認させてから、それをスマートに渡してくれる。

Danke!
私のお礼に、頑張れよのメッセージで返してくれる。
ここのスタッフはまさにプロ集団だ。

5EUROチップをポケットに収めた私はカジノフロアへと戻った。
一度テーブルの席を立ったからか、次のゲーミングの間がまだ掴めていない気がした。
フロアの壁にいくつか置かれた、高級そうな椅子に腰掛けてみる。
特別座り心地がいいというわけでもなかったが、まさか一介の貧乏旅行者である私が、
この博物館から拝借してきたかのような逸品に腰掛ける機会を持てるとは思わなかった。

金持ちの余裕だろうか、それとも皆がフォーマルだからだろうか。
このカジノフロアに入ってからは他の人から特に目線を感じないので、私は周りと同じく高貴な紳士に見られているに違いない。
何せ私は高級そうな椅子であってもゆったりと優雅に腰掛けてみせたり、
熱い室内でのゲーミング中には、普段の不恰好なタオルではなく、丁寧に折りたたまれたハンカチで汗を拭いているのだ。
歩くときもできるだけゆっくりと、背筋を伸ばして堂々と振舞ってもいる。

たまにはこういうのも悪くない、とは思うのだが、このフロアにいる人たちと比べ決定的に違うのは掛け金の低さである。
いかに身なりがよくとも、私のベッドは毎回ミニマムすれすれの極めて庶民的な範囲であり、
見慣れない色のチップをドバドバと掛けている富豪の皆様方を見ていると、嫌がおうにも現実に戻されてしまうのが悲しき限りだ。

では庶民は庶民らしく、小額で勝たせてもらおう。
そろそろ集中力が戻ってきた私は、次は立ちルーレット台へと移動する。
ここのテーブルは椅子がない、ディーラーも客も立ったままだ。

客が最も少ない台を選んで挑戦する。
最初は3人くらいしかいなかったので、予想通りかなりの回転速度だった。
一度のゲームのベッド数が少ない、というより予算があまりない私にとっては、
1つ2つ掛けただけでもうそれ以上はベッドを増やす気はなく、掛けたら後はルーレットが回るのを待つだけなのだ。
客が多いと、どこにベッドを増やそうかと悩む客を尻目に、私はただ黙って待つしかないため、非常に退屈だ。
庶民はやはりこのくらいのテンポがいい。

隣の女性客は、さっきまで掛けていたチップを使い切ったようで、
手に持つ高級そうな小さめのカバンから、ここのカジノのチップを取り出し始めた。
なるほど、客はチップをいろんなところにしまい込んでいるようだ。
私はジャケットのポケットにチップを入れているが、やはりそれも問題なさそうだな。

5,6回ほどルーレットが回ったところだが、次第に雲行きが怪しくなってきた。
2EUROではなく5EUROずつ掛けている私の勝率はやや負けが込んでいて、
ゲーム開始前は60EUROだったのが、今は35EUROまで減っている。

私はノーベッドを織り交ぜながらゲームを続けるが、どうやら私のいる台も人が増えてきたようだ。
あまり小さなテーブルではないから大人数ではないが、最初3人だったその台の参加者は今は8人ほどに増えている。
大柄なドイツ人は隙間があるやどんどん割り込んでくるので、私はこの民族体系格差というアドバンテージがありながらも、
できるだけ自然に高貴に振舞うことにした。

一進一退の末、とうとう私は残り25EUROになってしまった。
ここで負けてはギャンブラーの名折れだ。
時間的にも、そろそろホテルに戻った方がよさそうなので、私はラストゲームとばかりに、全額25EUROをアウトサイドに掛けた。
これまでは常に5EUROずつ掛けていたが、ここで勝負をかけるべきだろう。

今は客が少なめな中、5EUROチップを5つ積み上げた私のベッドに、妙な存在感があった。
庶民のラストの意地である。

頼む…
私はガラにもなく、心に十字を切る思いであった。

カラッ。

ラストのルーレットが回り、止まった。



…ふむ…

私は心の中で大きくガッツポーズをした。

私の掛けたチップは数が多かったためか、ディーラーは軽く計算するような仕草をして、確実にチップを積み返してくれた。
私は焦らずにそれを回収する。ここもあくまでも高貴に…。

最後に掛けた25EUROが、75EUROになったのである。
50EUROから開始しているので、25EURO稼いだ計算だ!
よし、これなら十分な勝利だろう!

これがギャンブラーの力だ!

私は心の中でそう何度か言いながら、静かにルーレット台を後にした。

カウンターへ戻ると、最初に入ったときと同じく一番右側だけがオープンしていた。
やはりカウンターによってスタッフが固定なようだ、これまた最初の時と同じスタッフがいた。

Hi!
私は笑顔を作りながら近づき、ポケットに入っていたチップを積み上げて見せる。
スタッフも笑顔で、50EUROと20EURO、5EUROの紙幣を1枚ずつ取り出してくれた。
ひとまずそれを受け取った上で、50EURO紙幣を前に出し
Can I money exchange?

money exchange? Ja.
私の両替希望に応じてくれた。
続いて紙幣の組み合わせを伝えねば。

ツヴァンツィッヒ!

ツヴァンツィッヒ。

向こうも復唱しながら20EURO紙幣を出してくれた。

ツヴァンツィッヒ。two.

ドイツ語と英語の組み合わせだが、この場合は有効な手段だろう。
スタッフの手に持つ20EURO紙幣が2枚になった。
残りは10EURO紙幣にしてくれ、というところで、
私は10という意味のドイツ語が口からなかなか出てこなかった。

英語ですんなりテンと言えばいいものを、どうしてもドイツ語で言いたかった私は、
ツェーンが喉元まで出てきていながら、口から息が出なかったのである。

スタッフがすかさず10EUROを翳してくれるのを見て、私はついに言うことができなかった。
笑顔で承諾のジェスチャー。
まぁ最後は締まらなかったが、こちらの両替希望は叶えられたのでよしとしよう。

しかしやはりプロだけあって、最後まで笑顔を崩さない人だ。
英語で「楽しめたかい?」「また来てくれよ?」などといった言葉を話してくれているのだろう。
私は笑顔で彼の言葉を聞き、両目の間の鼻の上を軽くつまむ仕草をしながら、眠そうに「グーテナハト」と言ってみた。
実際それほど眠くはなかったのだが、彼との会話を楽しみたかったのである。
彼は声を出して笑って「グーテナハト」と返してくれた。
私はまた笑顔で彼に軽く会釈し、それを別れの挨拶に代えさせて頂くことにした。

家に帰るまでが運動会だ、なんて言葉があるが、ここではまさにホテルに帰るまでが社交礼儀だ、といったところだろうか。
眠く疲れた体ではあったが、行きと同じく背筋をピンと伸ばして歩き、ホテルへと戻った。

ホテルに戻り、少し荷物を整理したあと、バスルームへ。
私はシャワーだけでもあまり抵抗はないのだが、たまにはバスタブで入るというのも悪くない。
大理石があしらわれていると思われる、豪華なバスタイムを束の間、楽しんだ。
別に湯船に何か花を浮かべたわけでも、入浴剤があるわけでもないのだが、普段入っている風呂よりも明らかに贅沢な感じがした。

風呂から上がり窓を開けると、やや蒸し暑い。
やはりここは温泉地というだけあって湿度が高く、気温もそれほど低くはないので、何かを着て寝ると、寝汗をかきそうな気がした。

せっかく豪華そうなベッドがあるのだし、私1人なのだからと、今日は裸で寝ることにした。
ヨーロッパではアメリカと違い、ヌーディズムもあるわけだし、たまにはこんな開放感溢れる就寝も悪くあるまい。と自分に言い聞かす。
ちょうど何も着ていないほうが、布団を羽織ったときに程よい暖かさで、心地よく眠りに付くことができたのは確かであった。


  ⇒次の頁『ドイツ1人旅(4/5)』へ進む


■ TOPに戻る | ▲ 目次に移動 | ▲ このページの一番上に移動 | ★ 海外旅行記一覧へ(日付順)(エリア別)

旅行記について

   海外旅行記

   国内旅行記

旅の写真

ワールドレポート

旅の準備

旅の裏技

旅のスタイル

旅の喚起

旅のデータ集

日本国内資料集

全世界の資料集

世界の情報集

旅のリンク

その他雑記


● 全ページの一番下で
サイト内検索が可能です